「パンにバターを塗る」様子を観察し、課題を見つけよ。

「デザイン思考」を一言で説明してくれ、と言われたらなんと説明できるだろうか。

石川俊祐氏は「デザイン思考」 はロジックだけでは正解を導き出せない時代に必要な思考のメソッドだといい、これを「トップデザイナーの目玉と脳みそ」を開放するメソッドだと展開する。

 

石川は、IDEOが提唱する「デザイン思考」の象徴的なケースとして自動車保険のケースを紹介している。そこでは人々の無意識化にある欲求を探り出し、保険サービスのあり方をデザインしたといっている。マーケットの願い(ニーズ)へ対応したサービスを作ることが「従来の業界」とは異なっているということのようだ。サービス提供者の目線からサービスを考えるのではなく、利用者目線でサービス設計するのが「デザイン思考」である。

このあたりは、魔法の杖のごとく思考の方法を変えれば出てくるアイデアだと言っているようではあるが、よくよく考えてみると大して新しいことではないような気がする。

アートは自分の衝動から、デザインは社会課題からはじまるとし、アートと区別しているが、デザインは「課題解決」であると言っている。このあたりの説明は正直、じゃあ今までと何が違っていたのかと首をひねりたくなる。

 

デザイン思考は、リサーチ(観察)→シンセシス(問いの設定)→ブレスト・コンセプトづくり→プロトタイピング・ストーリーテリングと発展する。クリティカルシンキングと異なるのは問いに対するソリューションのところだろうか。

本書で一番心に残ったの、この観察プロセスで例示された深澤直人による「パンにバターを塗る)というワークショップ。2人一組になって一方がパンにバターを塗り、もう一方がそれを観察し、気付いたことをメモし、アイデアを出し合うというものらしく。まだ誰も解決していない無意識のニーズを観察によってあぶりだすという。

 

素朴なのに、奥深く、はっとされられる。社会課題はSDGsのようにカタログ化されているが、こんなに身近なところにも未解決の課題があったのかと、それでよかったのかという思いで読んだ。