スマートシティのエージェントはコンサルタントであるか

本書では、人口12万人の会津若松市アクセンチュアが参画して立上がったスマートシティプロジェクトの8年間の軌跡を紹介している。本事業は、2011年3月の東日本大震災からの復興支援としてはじまったが、会津若松市は今日の地方都市が抱える課題の多くも共有していることから地方創生のモデルになるまちづくりであると著者は捉えている。

 

まず、地方から若者が流出する理由を古い産業政策にあると指摘する。従来は、ひたすら生産工場の誘致に力を入れてきたが、高付加価値産業自体が地方都市にないことで若者を引き付ける雇用が生まれていない。これを解決する2つの方向性としては、東京などの首都圏にある高付加価値機能の一部を地方へ移転し、次世代を担う新産業そのものを地方で育成することが示されている。これは言い換えると、ネットワーク社会となったことで、中央集権的なシステムから分散社会モデルへと転換することが必要ということでもある。

 

本書の論調は、データサイエンスを軸とした高付加価値を生む産業を育てることにある。そのためには市内の会津大学と協働して人材育成を継続して行っていく。地域経営が自走化するまでアクセンチュアがフォローアップするという。オプトインでデータを集め、それらを使ったAPIをプラットフォームで公開する。アプリの開発は、アジャイル形式で市民とひたすらワークショップしながら作っていく。スマートシティの成功如何は、市民参加を増やし、市民にとって有用な市民サービスを生み出していくことあたりにありそうである。そして、実証フィールドとして新しいサービスを実験できる環境があることで、外からも企業の出入があるような地域に発展していく。

 

かつてのスマートシティはどちらかといえば、環境負荷低減にむけてエネルギー量の省力化をデータを用いて可視化することで実現していくといったものだった。しかし今日のスマートシティは環境だけではなく町の魅力の強化するために市民のニーズ起点で市民サービスを作り変えていき、その手段としてデジタルテクノロジーをつかっていくといった性格が強まっている。

 

 

本書ではまちづくり、といっているがデジタルガバメントがベースとなっている。仕組みをつくる上で地域にいる企業らが抱えるデータをオープンにすることでイノベーションを誘発していくことが必要だとし、これまでになかったサービスを作り出そうともくろんでいる。特徴的なのは、建築はハコモノとして批判的にみられ、上流での議論から取り残されてしまっている。建築分野だけは視野が狭すぎると痛感しており、意識を改め都市のエージェントになるべく知見を広めていく必要がある。

 

本書の大半は、イノベーションを生むためにどういったデータマネジメントをするのか、だれがプレーヤーになるのかといった大枠が語られている。その中の1つの事業として、地域商社と連携したモデル実証の話が面白い。三重でとれるアワビは東京で食べようとすると1.5万円はするという。しかし、このアワビの仕入れ、販路をかえることで消費者は1万円で食べることができ、アワビの生産者、販売者は東京向けに売るより高い利益が得られるといったモデルの変更を提唱している。ECサイトや大手の旅行代理店といった販路を使うと消費者には届きやすいものの、手数料がとられ、利益が残らないことで、地方の元気が奪われていると気づく。地方創生ではこうしたマネタイズモデル(お金の循環)を設計してあげることが持続性を担保する上で必要だと感じた。

 

スマートシティの先進事例としては、グーグルのトロント、アマゾンのシアトル、パナソニックの藤沢、アムステルダムフィンランドのカラサタマ地区などが紹介されている。会津若松ベンチマークは、エストニアスウェーデンデンマークにひろがっているメディコンバレーにあるという。スマートシティの動向は引き続きウォッチしていきたい。イノベーター層、アーリーアダプターをこえてマジョリティが参加する日も近づいている。

 

変革を起こそうとする。しかし、地方には既得権益が既に根を張っており身動きがとれない状態になっている。これらをアンバンドル(バラバラに)することで再組織化し、風通しをよくすることで可能性のある未来を描き出すことが必要だという。この創造的破壊(Dare to Disrupt)をどこまで導き出けるか、コンサルタントの役割はそういったところにあるように思えた。

 

雑感を少々追記する。デジタルガバメントのボキャブラリーは都市計画や産業振興といったアプリをその上に乗せるためのプラットフォームであると考えている。するとまちづくりでイニシアティブを持つ主体は従来のまちづくり会社デベロッパーや地域経営コンサルタントとは異なってくる。個別最適ではなく全体最適こそが必要だとする点は、システムベンダーに虫食い状になったバラバラのシステムが乱立する状態をみてきたシステムコンサルタントらしい問題のとらえた方だと思う。システムコンサルタントは決して、地域課題や都市計画といった人や空間を語るにふさわしい主体だとは思えず、距離をとってみてきていたが、トロントのサイドウォーク(中止となったようだが)の例のように、システムからプレーヤーが上流から地域経営を図っていくように時流は変わってきている。

 

クラウドバイデフォルト、ディープデータバレー、オプトイン・オプトアウト、パーソナライズされたサービス、都市OSアーキテクチャー、オープンデータ、API、AIチャットボット、など、システム領域で使われる言語が多用されているが、食わず嫌いではまずいので、言葉を吸収する継続的な努力はして参りたい。